2019.12.03メールマガジン

見直しが必要な新卒採用のキーワード

22卒の採用からは、1dayインターンシップという名称の採用イベントが消えることになった。本来、インターンシップとは、学生が長期にわたって企業などで実際の仕事をしている人から話を聞いたり、仕事を体験したりすることで、将来の進路を考える機会のことだが、このインターンシップは、わずか1日の職場体験であり、多くが採用活動のための会社説明会であると大学関係者から強く批判されていたものだ。今回、この1dayインターンシップをインターンシップではないと決議をしたのは、企業と大学団体で構成される「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」だ。もちろん、1日で行われる企業セミナーや懇親会などは、学生にとって重要な進路情報なので、インターンシップという紛らわしい名称を外すことで継続されるのは言うまでもない。

それにしても新卒採用においては、この1dayインターンシップのように本来の趣旨を逸脱し、形骸化しているキーワードが少なくない。それがしばしばマスコミに報じられ、世間の常識と大きく異なっていることがニュースになっている。そんなあいまいなキーワードをいくつか取り上げてみよう。

◎プレエントリーは本エントリーのこと
21卒の採用は、経団連の指針撤廃を受けた後、政府によって指針の枠組みが引き継がれた。そのため来年も採用を目的とする広報活動の開始は3月1日以降となるが、その広報活動開始とはどのようなことか、不鮮明だ。一般に企業の広報情報といえば、経営方針、事業内容、財務内容、人事情報などで、これを就職活動に熱心な学生が早期に情報を入手して志望先企業を研究する活動をエントリーといっていた。これは、企業としても歓迎するところで学生に資料を送付したりアンケートを取ったりしていた。しかし、採用活動の早期化とともに一部の企業が、学生に志望動機や自己PRを書かせるエントリーシートを受け付け、学生の個人情報の取得も行われるようになった。

だが、これは、採用選考の第一歩である。そのため就活学生たちは、情報収集だけを目的とするエントリーをプレエントリーといい、この就職応募活動の出発点になるエントリーシート提出を本エントリーと区分するようになった。しかし、先の指針の手引きでは、「広報活動の開始期日の起点は、自社の採用サイトあるいは就職情報会社の運営するサイトで学生の登録を受け付けるプレエントリーとする」といっている。

その広報活動とは、募集要項の公開であり、会社説明会の案内であった。そのため今年の採用活動を振り返ると企業は、3月1日から本エントリーを受け付けることで一気に採用活動が本格化したのである。にもかかわらず3月1日からは、プレエントリー開始といっている。ここは、プレエントリーでなく本エントリー受付開始と言い換えなくてはならないのではないか。

◎選考開始日は、内定開始日
これも引き継がれた採用ルールだが、6月1日は選考開始日というが実際には、内定出し開始日といった方が良い。今年の6月1日の新聞やテレビは、「選考開始日、早くも内定6割」とか「即日内定で懇親会」などの報道が見られた。これは当社の企業内定出し時期調査でも4月3割、5月5割、6月7割というのが内定出しのテンポだった。企業も選考開始日までに内定出しを終えることが目標になっている。しかし、この選考開始日という表現は学生にとっては困惑するしかない。この日からエントリーできる企業が激減するからだ。就活学生にとって、この日は、就活の終了日なのである。

◎内々定と内定は同じこと
年々過熱化している新卒採用では、早期に内定を出して人材を確保するのは当然のことだが、この早期の内定のことを採用担当者は内々定という。なぜ、内定といわないのか。指針によれば、「正式な内定日は、卒業前年の10月1日以降」とされている。そのため多くの企業は、10月1日になれば内定式を行い、内定書を渡す儀式を行うが、早期の内定については、メール、口頭、握手といった形式で内定を伝えている。いわば口約束であるが、企業の意思表示が明白なので内々定であっても内定と全く同じ労働契約関係になる。つまり内々定は、内定と同じだが、早期であるため世間に配慮した表現をしているにすぎない。内定という言葉は、本来、予約とか内内には決まっていること、という意味なのだから、内々定とは予約の予約ということになる。奇妙なキーワードといえるだろう。(夏目孝吉)

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