2019.10.23メールマガジン

当面、通年採用は部分的

昨年8月、経団連が指針撤廃を表明してから企業の通年採用が話題になっている。本メルマガでもたびたび取り上げているが、これまでの企業の動きを見ると、一括採用から通年採用に転換するという大きな流れにはなっていない。今回は、企業がどのように通年採用に取り組み、課題はどこにあるかを、前回同様、当社が先にまとめた「20卒採用総括レポート」(以下、本調査と略す)を手掛かりに紹介しよう。

▼通年採用といっても企業によって理解は様々だが、一般的には、年間を通じた採用活動で新卒だけでなく既卒も含んでいるというのがイメージ。そこで本調査では「通年採用の解釈」を企業に聞いてみた。その結果、「低学年からの採用活動」と回答した企業が15.0%、「3年生向けの早期の採用活動」とした回答が40.6%、「4年生以降」という理解は9.4%、「卒業後の採用活動」という回答は、22.2%だった。このように通年採用といっても企業の受け止め方には相当に幅があるのが実態だ。具体的に通年採用を実施している企業の例をあげてみよう。ファーストリテイリング(ユニクロ)の場合は、「大学1~4年、第2新卒、経験者を問わず、1年を通じていつでも応募が可能」というものであり、楽天の場合は、エンジニアの採用に限定し、「選考時期・入社時期について特定の時期に限定せず、いつでも選考に参加し、選考後も個人の都合に合わせて入社」できる。サイバーエージェントの場合は、「応募の締め切りはないが、採用人数の定員に達した場合、エントリー受付を終了」というものだった。

▼このように企業は、それぞれ独自の通年採用に取り組んでいるが、本調査によれば、その実施率は以下の通りだ。
すでに実施  8.3%
検討中    52.8%
実施予定なし 24.4%
無回答    14.4%
通年採用を実施している企業が、案外、少ない。しかし、検討中という企業が5割を超えていることに関心の高さがうかがえる。多くの企業が通年採用のメリット、デメリットだけでなく長期的な雇用戦略を検討中なのだろう。

▼長期的な雇用戦略はともかく、企業が、これまでの新卒一括採用を通年採用に転換するメリットとはどのようなものか、ざっとあげてみよう。
1.既卒者や留学経験者、外国人など多様な人材が採用できる
2.優秀人材を見極めミスマッチのない密度の高い選考ができる
3.応募期間や選考期間に定めがないので随時選考、内定を出せる
4.年間を通じて採用活動をするので採用計画の変化に対応できる
5.大学教育や学生生活に配慮した採用活動ができる
というもの。

▼どれも企業がめざす理想の採用活動だが、それだけに課題も多い。これについては本調査の「通年採用のデメリットは何か」という設問が参考になる。回答を多い順にあげてみよう。
1.採用活動が長期化する  83.3%
2.内定辞退が通年化する  47.2%
3.採用選考の効率が悪い  30.6%
4.大企業が人材を独占する 27.8%
4.応募者数が読めない   27.8%

以下、大学教育に支障が出る、人事の体制が取れない、採用活動のコストがかかる、採用広報が難しいなど。これらの不安や課題は、それぞれ重要だが、企業が最もデメリットとしてあげている「採用活動が長期化する」ということは通年という看板を掲げたのだから仕方あるまい。AIで対応するというわけにもいくまい。次の「内定辞退が通年化する」は、就職人気企業であっても油断できない。思いがけない企業が入社直前に内定者を奪うからだ。ここは内定学生の内定辞退可能性判定ツールが欲しいところだ。三番目にあげられている「採用選考の効率が悪い」は、一括採用を否定しているから当然のことになる。そのほかのデメリットは、採用体制が強力で予算の潤沢な企業以外は、どこも直面する難問ばかりだ。とくに地味で採用体制の弱い中堅企業となると通年採用の導入は絶望的なる。だから今回の経団連の「通年採用拡大」という問題提起について企業側は、評価するが20.8%に対して評価しないが20.0%と賛否相半ばし、「どちらともいえない」という回答が44.4%もあった。これでは、経団連がいくら問題提起しても企業は、なかなか通年採用に全面切り替えとはいかないだろう。この通年採用については大学側の評価も知っておきたい。本調査によれば、大学のキャリアセンターが通年採用を評価するという回答は15.2%、評価しないが21.3%、ここでも「どちらともいえない」が47.0%もあった。大学が評価する理由は、「年間を通じて自由なスケジュールで学生にとってチャンスの幅が広がる」という声だが、評価しない理由は「就活が早期化し、さらに長期化することで学業に影響あり」「新卒採用を早期に実施するための口実になっている」というもの。企業ばかりか大学にも不評のようだ

▼このように本調査では、当面、企業には、通年採用への戸惑いが多く、踏み切れないことを明らかにしている。前述した通年採用への評価で企業、大学の多くが「どちらともいえない」と回答していたが、その内容は課題が多く否定的といってよいだろう。だから本調査にある3年後の新卒採用の予想をみると、「通年採用中心の採用活動になる」と回答した企業は5.0%、「一部一括採用、全体として通年採用」は、1.7%で合計しても1割弱、「通年採用と一括採用の割合は同じ」とする企業を足しても2割だった。これに対して「一括採用が継続」が10.6%、「一部通年採用、全体として一括採用」が56.1%と合計すれば7割弱と一括採用継続が圧倒的に多数を占めた。

▼たしかに今回の経団連の通年採用という問題提起は、理想としては良いが、課題が多すぎたようだ。日本的雇用制度の基本となる企業の雇用諸制度、人材育成制度それに大学教育の改革など構造そのものが変わらなければ普及しない大きなテーマである。そのため経団連も4月の産学協議会では「複線的で多様な採用形態に秩序をもって移行していくべきである」と通年採用の提言から一歩引いたコメントをしている。結局、当面、企業の新卒採用は、一括採用を継続しながら一部のグローバル職やIT職といわれる高度人材には早期からの通年採用を試みることで緩やかに移行することになりそうだ。(夏目孝吉)

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