2019.10.08メールマガジン

当面、企業は、AI採用に慎重

昨年来、企業のAI採用が話題になっている。人事関係のEXPOやイベントに行くと、今年はAI採用元年だ、などとAIツールを開発した会社が脚光を浴びている。しかし、20卒の採用活動や各種調査を見ると、AI採用に対する企業の取り組みは予想外に慎重のようだ。今回は、AI採用について企業や大学がどのように取り組み、課題はどこにあるかを、当社が先にまとめた「20卒採用総括レポート」(以下、本調査と略す)を手掛かりにレポートしよう。

▼いわゆるAI採用といっても多種多様だが、現時点で実用化されているのは、エントリーシートの採点評価とネットを通じた面接の実施評価の2つである。これがAI採用のイメージだが、本調査によれば、こうしたAI採用を「すでに導入している」という企業は、少なく、4.4%に過ぎなかった。さらに「導入に向けて前向きに検討」という企業は、わずか3.3%だった。これらを合計しても7.7%だからAI採用に取り組んでいる企業は、まだ1割程度ということになる。では、最も多かった回答は何か。「検討中」という回答で29.4%もあった。すでにAI採用のツールは多数販売されているが、いまだに3割の企業が検討中だという。さらに注目したいのは「導入することはない」と明確に回答した企業が20.6%、「検討したが当面導入しない」という企業が17.2%もあったことである。4割の企業がノーなのである。このほか、「この設問には回答しない」という回答が25.0%もあった。その多くは検討中なのだろうが、多くの企業がAI採用の方向を打ち出せないでいる。こうして全体をみると企業のAI採用への取り組みはブームどころか、まだ始まったばかりというのが現状である。

▼企業が、AI採用を導入する目的は、「採用業務量の削減」であり「採用選考のスピードアップ」、「合否基準の統一・人材観の標準化」である。どれも採用担当者の切実な問題であり、最優先で解決しなくてはならない課題である。それが現在のAI技術では、こうした問題を解決できるという。だから企業の採用担当者のAIに対する関心は高いものがある。本調査でAI採用へのスタンスを聞いた設問では、「より活用されるべき」という積極的な回答は17.2%だったが、「部分的な活用にとどめておく」という回答が38.3%もあった。つまりAI採用について前向きの回答が過半数だったのである。これに対して「あまり活用すべきでない」と「活用すべきでない」の否定的な回答は、合計が3.9%だった。多くの企業は、AI採用に全面的ではないが、前向きだという姿勢は、明白だ。しかし、ここでも「わからない」と「無回答」の合計が40.5%もあることに驚く。企業が「わからない」と答える真意は何か。AI採用のメリットは理解するもののいくつかの疑問や不安があって戸惑っているからだろう。この傾向は、マイナスに作用し、AI採用について積極評価が昨年の59.4%から今年は、55.5%に後退している。その原因は、AI採用導入にあたって、多くの課題が十分に解決されていないことだが、これに加えて個人情報保護や業者選定の難しさ、学生や大学からの反発などからAI採用の熱気が冷めてしまったからだろう。

▼AI選考導入にあたって、企業は、どのような不安や課題持っているのか、本調査を見ると次のような結果だった(企業の回答率の多い順)。

1.選考結果に不安がある(44.4%)
2.導入コストが高い(43.3%)
3.業者選定が難しい(21.1%)
4.大学・学生の評判が気になる(15.0%)
5.担当できる人材がいない(10.6%)
6.社内の理解が得られない(8.9%)
7.活用するメリットがわからない(7.8%)

これらの不安や課題は、それぞれ重要だが、「選考結果に不安がある」ということをあげている企業が5割近くあることに驚く。AI採用の信頼度が低いのである。そのためか、導入企業のなかには、AIによるESや面接の採点結果について採用担当者がすべて再点検しているという。AI採用によって採用担当者はさらに仕事が増えるという奇妙なことになったのである。課題の3番目にあげられている「業者選定が難しい」とは、人事データを業者と共有するだけに応募者の個人情報保護について信頼できる業者の選定が難しいということである。これは、先のリクナビ問題でその重要性が改めて認識されることになった。

▼AI採用については課題として4番目にあげられている「大学・学生の評判」も知っておきたい。本調査によれば、学生たちは、エントリーシートについてはAIを使った採点については大きな反発はない。しかし、AI面接となると圧倒的に反対が多い。学生アンケート結果では、面接賛成が14.6%に対して反対は46.6%だ。賛成をいう学生は「面接官の好みや相性で採用不採用が決まることがないので容認」と回答しているが、反対の学生は、「ESならよいが、応募者が能力や適性、相性といった面接評価は人間のほうがわかる」と反対している。また大学のキャリアセンターがAI採用をどう見ているかも興味深い。AI活用に前向きな回答は50.0%と昨年の41.2%から大きく伸びた。ただし、その容認は「より活用されるべき」ではなく、「部分的な活用」というものだった。まだまだAIの信頼度が低いからだろう。

▼このように本調査では、企業にAI採用への期待はあるものの当面は、慎重論が増えたことを明らかにしている。しかし、中長期的に見れば、信頼度、導入コスト、運用技術などの課題は徐々に解決され、いずれAI採用が広く導入されることは確かだろう。今後、AI採用の大きな課題は、採用選考だけでなく採用広報、就職サイト、WEBテスト、スカウト型採用、紹介ネットワークなどに組み込まれたAIの飛躍的な発展とビッグデータとの結合による高度な人材評価や行動予測、マッチング機能の強化などが可能になり、新たに個人情報の入手と活用、管理、個人保護の在り方が問われることになりそうだ。(夏目孝吉)

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