2019.08.06メールマガジン

今年の大学特集を読む

■毎年、夏になると大型書店では「進学コーナー」が設置され、新聞社や出版社からは、高校生やその親、企業の採用担当者を対象にした大学特集号や大学ランキング、大学ガイドが一斉に発売される。今回は、そのなかから、夏休み中に採用担当者が読んでおきたい3冊を紹介しよう。

▼毎年の定番といえるのが週刊東洋経済臨時増刊「本当に強い大学2019」。5月下旬に発売されたが現在でも販売中だ。同誌は、2015年以降、毎年、同じタイトル、デザイン、構成で編集されている。その目玉は、同誌独自の指標に基づいて300大学をランキング化していることである。その指標とは、教育・研究力、就職力、財務力、国際力の4つ。その結果はどうか。総合ランキングを見ると東大、早大、京大、東北大、慶大、阪大、名大、豊田工大、国際教養大、東工大がベストテン。3年前の同調査でも顔ぶれはほぼ同じ。例外は、国際教養大で16位から今回、急上昇したのが目に付いた程度。だが、その要因は。財務力の充実だったようで、とくに新鮮な話題はなかった。

▼同誌の編集企画のなかで採用担当者にとって興味があるのは、やはり就職力のランキング。その指標となるデータは、実就職率、上場企業役員数、主要400社への就職率の3つ。このうち上場企業役員数は、慶大、東大、早大がベストスリーで予想通り、400社就職率は、東工大、一橋大、国際教養大がそれぞれベスト3、それぞれ納得がいく結果だ。だが、実就職率ランキングは、いかがなものか。単年度の数値では、ブレがあるということで3年間の平均実就職率を用いたというが、その結果は、経済・経営・商学系では、ノースアジア大、安田女子大、福井県立大の順。法学系では、日本文化大、青森中央学院大、大阪工大とそれぞれ95%以上の就職率で上位を占めた。だが、このランキングの10位以下を見ると14位に一橋大商、27位に名大経、法学系では、20位に東北大、30位に上智大とある。さらに東大、京大については上位30位以内には見当たらない。学生数が少ない大学や専攻と職業が密接な単科大学がきめ細かい就職支援をしているのは事実だが、実就職率90%以下の大学の就職支援が弱いというわけではない。公務員や司法試験などの資格試験浪人や起業、就職内定届を出していない学生が多いのだろう。求人ブームの時代だけにこのマッチング率を評価する指標は、本当に大学の就職力を示す数字かどうか疑問だ。

▼今年の同誌のなかで面白かった記事を3つあげておこう。
1.「超エリートが推薦をいやがる理由」推薦では天才であることを証明できない。
2.「定員厳格化政策の悪影響」厳格化は大規模大学の経営を圧迫し、入試を難化させた。
3.「企業発祥大学の利点」私立大学はやろうと思えば柔軟に変えられる。
このほか同誌は、読者にとって情報として読み応えのある広告(ADとも表示)が少なくないのも特徴だ。例えば、「異分野が融合する先進の教育研究を土壌に切り開く新時代」という大阪府立大の記事は読ませる。研究者や学生が登場して自分の研究内容や理系女子の活躍ぶりを楽しく紹介していたのは良かった。また山梨学院大学の「全学的国際化の実現へ」は、内容は昨年版と同じだが、中国人副学長とインド人学部長の話は明快で同大がめざす国際化が良くわかった。
なお、同誌の記事はどれも数ページでまとめられているので読みやすいが、物足りない記事もあった。例えば、「新設学部のトレンドと効果」、「日本の最先端研究世界大学ランキングの神通力」などがそれである。このほか、大学経営だけでなく学生生活の話題や地方大学と地方企業の関係、理工系大学研究室の実態と就職などは、ぜひ知りたかった。それでも採用担当者にとって同誌は、大学の現状を知るのに読む価値は十分にある。1200円は高くない。

▼東洋経済の大学特集が、大学の経営や今後の改革に重点があるのに対して朝日新聞社が7月末に発売した「AERA ムック 就職力で選ぶ大学2020」(朝日新聞出版 1000円)は、受験生や採用担当者にとっては興味深い記事が多い。入試予測や対策が第一特集だが、第二特集である「見えてきた就職活動新ルール」は、経団連の共同宣言の概要解説、ヤフーや東京海上日動火災、味の素などの人事担当者のコメントなど読ませる内容だ。さらに「面倒見のいい大学」という小特集では、全国の高校を対象に面倒見のいい大学をアンケート調査、その結果は、金沢工大、東北大、武蔵大、国際教養大、産能大がベスト5だった。その解説記事がないのは残念だが、同誌のいう「面倒見」とは、学部教育の充実、グローバル教育の拡充、就活における学生の相互支援、地方大学による遠方への就活サポート、起業や大学発ベンチャーの支援、社会人としての習慣や生活態度の育成という6項目は、採用担当者が大学訪問するときの留意点といえよう。このほか、同誌の特徴は、実就職率、人気企業への就職者数、国家試験合格者数などをランキング化していることにある。なかでも採用担当者にとって興味深いのは、人気企業就職ランキングだ。例えば東京海上日動火災は、慶大85人、早大53人、同志社32人、関西学院18人、一橋大16人、以下略。思わずため息をつく数字だ。ほかにソニー、富士通、トヨタ自動車、サントリー、日立、キリンなど44社の採用実績の内訳が掲載されているのが参考になる。国家資格では先の東洋経済と同様に国家公務員から警官、看護師、社会福祉士、理学療法士、薬剤師、消防官と幅広く、どの分野にどの大学が強いか大学別にランキング化している。記事としては、キーワードで読み解く新設学部、学科がよく整理されていて有益だった。このように本誌は、現在の大学を取り巻く環境や大きな変革の動きより、タイトルどおり当面する入試対策や就職実績、就職支援に重点をおいて編集されているガイドブックとして便利な一冊といえる。

▼このほか、大学の現状や課題については上記の2冊のほかに「地方大学再生」小川洋著(朝日新聞出版 810円)がおすすめだ。地方の国公立大、地方圏の私大などが、地域人材の育成、地域創成にどのような役割を果たしているか、大学教育の歴史や偏差値の推移を紹介しつつ再生の方向をレポートしている。地方大学の厳しい現実と課題を知るために採用担当者としては、ぜひ、読んでおきたい一冊である。

▼こうした大学に関する雑誌や単行本は、これからも各社からさらに発売されるだろうが、今回は、上記の3冊を楽しみながら読んでみてはどうだろうか。

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