2019.07.23メールマガジン

「新入社員は仕事も出世もほどほど」というけれど

■19卒の新入社員が入社してきた。今年も元気で優秀な若者たちばかりだ。そうした新入社員たちがどのような職業観を持ち、自分の生活や将来をどう考えているのか。新入社員たちは、なかなか本音を語りたがらないが、会社の新しい仲間としてどう一緒に働いていくのがよいのか、これまでに発表された研修会社や団体による新入社員調査を手掛かりに考えてみよう。

▼代表的な新入社員調査として1968年以来の実績を誇るのが日本生産性本部の「働くことの意識調査」。同調査は、新入社員の就労意識や生活価値観を時系列で分析している。まず、就労意識を見てみよう。新入社員の基本的な考え方である「働くことの目的」を聞いている。最も多い回答は、10年連続で「楽しい生活をしたい」ということだった。以下「経済的に豊かになる」「自分の能力をためす」「社会に役立つ」という順。「楽しい生活をしたい」という回答は、平成 12 年度以降、増加し続け、一昨年度は過去最高の 42.6%に達したが、今年はやや後退し39.6%と高止まりした。意外だったのは、「自分の能力をためす」という回答が少ないことだ。かつてトップの座にあったが20年前から減り続け、今年度は10.5%。なお、平成に入ってから増加していた「社会に役立つ」は減少し、横ばいのままで現在に至っている(今年度 9.3%)。これらの傾向は、就職先を決める動機調査や就職ブランド調査でも同様の傾向だった。働き方についてはどうか。同調査では、「人並み以上に働きたいか」と聞いている。この設問に対する回答は、就活時の景況感や就職活動の厳しさによって変動する。例えば、バブル経済末期の平成2~3年度には、「人並み以上」が減り、「人並みで十分」が大きく増えたが、その後の景気低迷にともない入れ替わりを繰り返してきた。しかし平成 25 年度から「人並み以上」 が減少するとともに、「人並みで十分」が徐々に増加(49.1%→52.5%→53.5%→58.3%→57.6%→61.6%→63.5%)、今年は、両者の差は、 34.5 ポイントと調査開始以来最大に開いた。好況が続き、人並みの水準が上がったためか、がむしゃらに働くのでなく、マイペースで過労死はしないように働きたいということのようだ。
このほか、「仕事中心か私生活中心か」、「デートか残業か」、「若いうちは進んで苦労すべきか」、などの設問があるが、「どのポストまで昇進したいか」という設問には誰もが注目したくなる。10年前と比較しているのが興味深い。調査結果をみると、社長を目指すという新入社員は、平成 21 年度は男女平均 15.2→今年度12.6%。これは、男女差が大きいので内訳を見ると、男性 22.3→18.4%、女性 5.8→4.1%だった。男女ともに社長を目指す新入社員が減っている。この10年間、女性の社会進出は大きく広がったが、経営の分野ではまだ遅れているようだ。このほか、重 役:14.1→15.6%、部 長:14.7→14.7%、課 長: 5.2→ 7.1%。かつて部長を目指すというのがトレンドだったが、最近は、重役(役員)にランクアップした。専門職については、平均で24.4→17.3%と減だ。その内訳をみると、男性 16.9→13.7%、女性 34.4→22.7%と男女ともに減っている。10年前には、女性は、専門職<スペシャリスト>志向が34.4%もあったが、今日では、大きく後退している。企業が魅力的な専門職を開発してこなかったことや女性を専門職でなく総合職として広く採用するようになったからだろう。気になるのは、「役職にはつきたくない」と思っている新入社員が少なからずいること。その数字は、4.5→ 6.9%。役職について「どうでもよい」という新入社員もいる。役職にこだわらないというスタンスは、評価が分かれるところだが、これが11.7→16.0%と増えているのは歓迎すべき現象なのだろうか。

▼このほかの調査では、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「新入社員意識調査」というのも多彩な調査項目を詳細に分析してなかなか面白い。その一部を紹介すれば、新入社員が、会社に望むこととしては、「人間関係」がもっとも多く、「自分の能力の発揮・向上ができる」が2番目だった。この順位は15年間、変わっていないが、その数字は、年々低下している。その一方、「「残業がない・休日が増える」ことへの関心が高いことを指摘、就業後の付き合いということでは、会社から「私生活に干渉」されたくないという傾向が年々増加、「会社の人と飲みに行くのは気がすすまない」という新入社員が増えてきているともいう。このように同調査によれば新入社員たちは、仕事への取り組みは熱心だが、自分のプライベートな時間や居場所を大切にしているという。

▼経営コンサルティングのリンクアンドモチベーションの新入社員調査は、採用担当者にとっては、見逃せない。調査目的が新入社員の組織への帰属要因を分析し、望ましい採用のあり方を探るものだからだ。その調査結果は、新入社員の会社への期待度は、「休暇や休日の取得状況」「家賃など補助手当」など“待遇の良さ”に関する項目が上位を占め、「歴史や伝統」「実力主義の評価制度」「グローバル展開」への期待度は低かった。これらのことから、今年の新入社員は「居心地の良い環境で、無理なく働きたい」という“個人志向”が強く、「企業理念」など、組織に関わる項目の期待度が低いことから、“組織志向”が弱いことも分かった。そこで同社では、「2019年の新入社員は、目指すべき理念や意義など組織に所属する「共通の目的」を持たず、待遇の良さや働きやすさといった条件のみで組織に所属している状態といえる。そのため、先行き、待遇や働きやすさが失われた場合、組織に所属する理由が薄れ、離職につながりかねないと指摘、新入社員が“個人志向”だけでなく“組織志向”を持って入社することが重要で、企業は採用段階から新入社員の自社に所属する意味を明確にし、彼らの“組織志向”を醸成する努力が必要」と提言している。

▼こうした諸調査から今年の新入社員がめざす働き方をみると、仕事も出世もほどほどにして私生活を重視することが目標のように思える。だが、本当だろうか、離職率が相変わらず3割台なのは、人間関係や労働条件が悪かったのでなく、自分にとって、もっとやりがいのある仕事や挑戦を求めていたからではないか。良い意味での「自分ファースト」なのではないか。その意味では、案外、仕事本位で昇進にも意欲的な面もみられる。だから社内の役職は目標でなく挑戦のステップに過ぎず、キャリアを積むことによってより高いレベルの役職を求めたり、より上位の企業への転職あるいは起業を目指したりするのではないか。残念ながらそれを裏付けるような調査はないが、彼らは、そんなの欲望を表に出さないことがスマートだと思っているのだろう。当面、そうした本音は、居酒屋でなく、一緒に挑戦的な仕事をする中で上司や先輩社員が理解することなのだろう。

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