2015.09.01メールマガジン

面談会ブームの背景を探る

▼16卒採用では、面談会という新たな選考手法が急増し注目された。この面談会とは、学生側から先輩に自由に話を聞くという趣旨だから、憲章や「指針」と関係はない。

だが、ここ数年は面談会が企業側から企画され、大学3年生を対象に早期からさまざまの名称で開催されるようになった。そのため従来の選考手法である、リクルーター面接(リク面)、グループディスカッション、集団面接、人事面接などと重複。今年は、面談会とリク面の区別もできず、面談会の方が、選考において重要な役割を果たすようになった。

学生が企業人に自由に話を聞いて幅広く進路を考えるという趣旨からすれば、まさに「変節」である。面談会が、どうして増加し、選考プロセスで重要視されるのか。その背景を探ってみよう。まず面談会の事例から。

▼経団連を担う大手メーカーA社。
就職情報解禁前の2月から特定大学の学生を対象に「OB・OG懇談会」を開催。エントリーシート通過者には若手社員を配置し、就活相談のキャリアサポートを開始。

5月、会社見学会と若手社員を囲んでの質問会。それ以降は若手社員3人によるよもやま座談会、中堅社員2人と学生2人でホテルのカフェで面談会、グループデイスカッション(学生6人、社員2人)、若手社員3人と学生3人の意見交換会(飲み会)。

6月下旬より一次面接(学生1人、中堅社員2人)。7月上旬、二次面接の後、高級ホテルで食事会。7月中旬、人事面接(学生1人、人事1人、幹部社員2人)、ようやく7月下旬に最終面接(学生1人、人事を含む役員3人)。その晩、電話で内定通知。

▼就職人気の高い金融機関B社の場合。
2月下旬、グローバル経済の現状や金融機関としてのB社の役割などの講演会、3月、ワークショップを全国各地で一斉に開催。

これと並行してインターンシップ参加者やエントリーシート通過者を対象にリク面をスタート(学生1人、社員2人)。この後、4上旬から7月末までB社は、リク面を2回、面談会(社員座談会、質問会、社員との交流会)を3回、人事面接を2回実施して8月に内定を出した。(昨年まではリク面6回、人事面接2回で内定)

▼8月選考を掲げた総合商社C社はどうか。
3月には「総合商社のトップと経営学者との対談」「世界を舞台に活躍する企業によるパネル」など、商社の魅力を大きくキャンペーン。4月からは、商社の仕事セミナー、やりがい体感セミナーなど多彩な活動を開始。「史上最大の説明会」においては、各部門の説明会や「採用担当と話す会」という大胆な質問会もあった。

ライバルのD社も負けてはいない。3月から6月まで毎月10回「社員との交流会」を開催してC社に対抗した。このほか総合商社は、それぞれ4月下旬に大学前の喫茶店で「企業を知るカフェ」という質問会を展開、5月中旬から6月下旬までは、「中堅社員との交流会」ということで各分野のプロ社員が登場する面談会、「社員とのカクテルパーテイ」「集団OB・OB訪問会」「キャリア相談会」など7月末まで精力的に開催した。

人事面接と内定の時期が注目されたが、各社とも「指針」どおり8月上旬から開始したが、内定出し終了まで1週間という集中ぶりだった。

▼このように多くの企業に普及した面談会だが、そのねらいは三つある。第一は、ミスマッチの回避である。優秀な人材だが当社には向いていない学生、人気企業とか有名企業だからという理由で応募する学生、志望先が明確でなく最終的に辞退する学生、腕試しで応募してくる優秀学生など、学生たちの観念的な企業観や誤解、勘違いを早期に是正するためである。

どこの企業にもこうした学生に翻弄されて内定を出してしまった、という失敗談はある。そこで見直されたのが面談会。何人もの社員によってさまざまに企業や仕事内容を奔放に語る。このことで学生は、企業の実態を知り、企業の期待を知り、就職へのモチベーションを高めたり、志望先を変更したりする。

これは、ラフに話し合ったり、質問したりするからこそ、理解・納得できるものだろう。これは学生だけでなく企業にとってもロスをなくし、良いマッチングのチャンスにもなる。これが面談会の一番大きなねらいだろう。

▼次は、採用準備活動というねらいである。面談会は、先輩社員と学生とのプライベートな接触だから採用活動ではない。だから「指針」の対象でもない。だが大学3年生なら話は、進路のことになる。とくに有名大学ほど、先輩、後輩の絆は強い。そうなれば、このチャネルこそ採用準備活動として活用できるとして着目された。とくに今年の場合「指針」初年度ということで採用スケジュールが不透明だった。

そのため多くの企業は2月頃から学生と接触し、面談会を頻繁に開催することで学生をキープ、様子を見ていた。しかし4月以降、大手企業が8月選考を遵守するという動きが見えてきたので、企業は選考を留保、学生の入社意思確認と他社への応募を妨害するねらいで面談会開催を継続、強化した。

学生にとっては迷惑な話で、内定を先延ばしする企業が多く、就活が長期化してしまった。だが企業にとって今年のように採用活動が不透明な環境では、採用準備活動として面談会の活用は、きわめて有効な手法だった。

▼面談会は素顔の学生を見たいというのが建前だけに面接型でなく懇談会型が多い。だが、その役割は前期においてはミスマッチ防止、中期ではセレクション、後期は意思確認といった機能を果たしている。とくにセレクションを目的とした面談会は、面接と違って企業が観察するポイントが少し違う。

面接の場合は、学生の能力や適性、コミニュケーション能力、挑戦意欲といった要素が重点だが、面談方式では相性やストレス耐性にこだわる。総合商社の担当者は「面談は評価ポイントなき選考だ、いろいろ話していく段階で学生の問題意識を知るだけでなく、我々の感情や関心をどうとらえて返事をしているのか、自前の見方や意見をどれだけ出せるのか、面談者が、この人間となら一緒に仕事をしていきたい、育ててみたい、と思わせる人間か、という相性を重視したい」という。

では、ここでいう相性とはどのようなものか。商社やメーカーの採用担当者によれば、
1.問題意識がある/2.打てば響く/3.可愛げがある
この3つだという。

新卒採用が本格化した1970年以降、採用基準は成績主義から、能力、適性、意欲といった人物本位の面接重視に変わったが、ここ数年は「相性」と「ストレス耐性」いう曖昧なものに変わった。度重なる採用スケジュール変更への対策とともに人材採用の基準の変化が、こうした面談会ブームの背後にあることは見落とせない。

[15.09.01]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉

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