2015.07.14メールマガジン

内定学生たちが、決断する時期がやってきた

7月8日、NHKは、ニュースで学生たちの就活がピークを迎えていることを報じていたが、気になったのは、企業のオワハラ。内定の握手の後に学生に携帯電話を出させて「これからの面接を全部、断ってほしい」
という場面。「指針」によって採用活動に余裕のなくなった企業の焦りだが、これによって学生たちは、自分で決断することの大事さを学ぶことになった。

▼「今後、就職活動は行わないという誓約書にサインすれば、内定を出してもいいよ」「親の賛成という承諾書があれば、内定を出しますから、よ~く相談してきてほしい」「もう就活はやめてください、もちろん就職ナビサイトを退会しますよね」「内定は、大学のキャリアセンターにも通知するから大学の承諾書を持ってきてほしい」などといわれた学生もいる。誠実に内定辞退を伝えに会社に行ったところ、さんざん嫌味を言われたという学生もいる。こんな企業の「オワハラ」が、8月1日を控えて目につくようになった。

こうした企業が批判されるのは仕方ないが、内定者の半数以上が、他社にエントリーし、内定すればそちらに就職することが見えるだけに採用担当者の気持ちはわからなくはない。苦労して内定を出した経過があるだけに、この時点で辞退されたら今後は、採用活動期間がないし、就活をしている学生数も激減するから、採用力の弱い企業は、採用計画に大きな穴が開くことになる。企業にとっては深刻だ。

▼内定辞退は、新卒採用が回復するとともに増加していたが、ここ数年は、選考途中、あるいは内定直前での辞退が急増していた。その原因は、大手も中堅企業も選考時期が集中し、面接や内定が重複していたためだ。

今年の場合は、それとは違って、内定を出し終えた学生たちの内定辞退が増えそうなのだ。その原因は、「指針」にある。すべての企業が同一歩調で3月に情報解禁し、8月から選考開始、順次、内定を出すというスケジュールならばよいのだが、今年は、そうはならなかった。

毎年、採用に苦労している準大手や中堅企業が、従来通り、春から採用活動を開始、5月から6月にかけて一斉に内定を出した。これらの企業からすれば、有名企業や人気企業と同じように採用活動をしていては、欲しい学生は採用できない。そこで大手企業に先行して採用活動を行い、内定を出した。

だが、今年は、学生に人気のある銀行、保険、商社、電機メーカーなど経団連傘下の主要企業が、採用選考を6月から8月に繰り下げた。そのため学生たちは、5月には、準大手や中堅企業の内定を保有したまま就活を継続、6月から本命の経団連の主要企業の選考に多数、応募するからだ。これらの企業は、当然ながら、学生たちのあこがれの企業、挑戦しがいのある企業、大本命の企業なので、そちらに内定すれば、迷うことなく現在の内定先を辞退するだろう。こうした動きが6月に入ってから目につくようになったのである。

▼対策は、ないけれどやることはやる
この動きに対して選考内定をした企業も傍観は、していない。内定直後から定期的に懇親会を開催したり、若手社員を張り付け、相談相手となってフォローをしたりしている。

例えば、ある中堅商社では、5年先の事業を開発している若手のチームリーダーを起用し、内定者を巻き込んだプロジェクトを立ち上げ、合宿を行っている。参加した学生には、大きな刺激になるだけでなく、内定先の企業の将来を考えたり、魅力的な若手社員を発見したりする。これが学生にアピールしている。

また準大手不動産会社は、他社には見られない先進的な人事制度(配属部門先決め、資格取得制度、フレックス勤務など)を紹介するだけでなく、実際に活用している社員を懇親会に参加させ、内定者の関心を引き付けている。

意外なのは、最近の学生には、独身寮、社員食堂、社員参加のイベント、持ち家制度など福利厚生の充実が、ポイントになっていることも留意点だ。こうした地道な取り組みに対して強硬策に出たのが上記のオワハラ。これは、評判を悪くするだけでまるで効果がない。企業の評判を落とすだけだからやめた方が良い。むしろ、ソフトな内定者フォローをして「案外、面白い会社で自分に合っているかも」と学生に思わせる方法しかない。その点、今年の内定者調査で興味深かったのは、早期内定を出した企業の1割が、8月末まで内定者が他社に挑戦することを容認していることだ。この理由について大手の流通企業は、当社に内定して満足することなく、格上のライバル企業の選考に最後まで挑戦する学生こそ当社が求める人材だと評価する企業もある。これも一つの考え方だ。

▼先に文科省は、「指針」の徹底とオワハラを止めさせるために企業に節度ある採用活動を呼びかけたが、現状では、早期に内定を出した企業が大手企業に内定者を奪われないようにさまざまなプレッシャーを学生にかける一方、経団連の有力企業は、「指針」どおり夏採用と言うことで他社の内定者を引きはがすことは、正当だと思っている。

こうなれば、中堅企業は、内定辞退が続出、中小企業は、来春まで採用活動をしても採用できないかもしれない。これが、「指針」初年度の現状である。この議論は、あらためて今年の秋に各方面から総括されるだろうが、今の課題は、学生の側にある。

オワハラで企業不信に陥っている場合ではない。内定を持つ学生たちは、内定先企業をもう一度見直し、8月選考の企業に本気で挑戦するのか、しないのか、将来を自分で決断する時期がやってきたのである。

[15.07.14]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉

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