2024.03.05メールマガジン

学生が「就職活動」で感じるさまざまな不安

新卒採用の難化が目立ちます。採用計画における充足率は下落傾向にあり、24年卒採用では(調査データにより差はありますが)75~80%に留まりました。この数年踊り場にあった22歳人口が25年卒生(2002年生まれ)から減少していくので、この売り手(学生優位)市場は当面続くでしょう。新卒採用は「学生を選ぶ活動」から、「学生に選んでもらう活動」に変わりつつあります。

学生からすれば恵まれた環境ですが、就職活動に対する不安は相変わらず強いようです。全国大学生活協同組合連合会『第58回学生生活実態調査』(※)によれば、就職に「不安を感じている」(「とても感じている」+「感じている」の合計)は74.8%で、4人中3人が該当します。また、これから就職活動をむかえる2年生が81.1%と高く、増加傾向にあることが気になります。

これだけ学生優位な環境で何をそんなに不安がるのだろう・・・と疑問に思うかもしれません。しかし、学生はさまざまな不安と向き合っています。

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○社会的に自立しなければならない不安
漠然とした不安を口にする学生の場合、大人の入り口に立つ自分への自信のなさが要因になっているケースが少なくありません。大学を卒業すれば親の庇護から外れ、自分の人生を自分の力で生きていくことになります。

いまの快適な生活は時限的だと分かっている。でも、何をすれば、どんな経験をすれば就職活動で評価されるのか分からない。どんな資格を取れば将来安泰なのかも分からない。自立への道筋が見えない自身に対する不安といえます。

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○知らない世界に対する不安
就職活動をはじめる直前の学生に多い不安でしょう。ほとんどの学生は、職場という場所に足を踏み入れたことがありません。そこで働く社会人と交流した経験もありません。しかし、ブラック企業、社畜、長時間労働、パワハラ、ノルマなど、怖い言葉がSNS上でたくさん拡散されています。イメージばかりが先行して、「仕事のストレスに耐えられるのか」「職場の先輩たちと上手くやっていけるのか」など、想像上の不安が雪だるま式に膨れてしまいます。

ですが、この手の不安は、実際の社会人と触れ合うことで徐々に軽減します。

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○自分に適した企業に就職する方法が分からない不安
「大学で学んだことを活かせる職業は何か」「好きなことを仕事にするにはどうすればよいか」「自分にあった企業の見つけ方を知りたい」。就職活動をはじめると、こうした質問や相談が増えます。絶対解のある問いではないので、アドバイスをもとに手探りで進めながら、自分のやり方は合っているのか・・・という不安に駆られます。

個性を尊重する教育を受けてきた世代です。内定が得られればどこでもよいと考える学生は多くありません。自分らしくいられる企業に就職したいという気持ちが強いからこそ、同時に不安も強くなります。

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○自己否定される不安
就職活動では、ほぼ確実に“選考に落ちる”という経験をします。明確な基準と点数で判断する受験や資格と異なり、相性や運、タイミングがものをいう就職活動では、避けて通ることはできません。しかし、慣れていない学生が多く、落ちることへの不安は大人が考える以上に大きいといえます。また、新卒採用では「人物重視」という言葉をよく見かけます。企業としてはスキルや能力より、人柄を大切にした採用をしているという意味で使っているわけですが、学生からすれば、人物重視の選考で落ちた自分は社会不適合者なのではないか・・・という不安にさいなまれます。

落ちることを避けられない就職活動だからこそ、「相性重視」といった言葉も加えてみてはいかがでしょうか。

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○多すぎる選択肢という不安
バリー・シュワルツの『選択のパラドックス』という心理作用があります。選択肢が多ければ希望に合うものが選べるので、満足度はアップするように思いますが、過剰になることで選ぶストレスが生じ、満足度は低下するという事象です。今50代の方が就職活動していた時代と比べて、新卒採用をおこなう企業の業種や仕事内容は大幅に増えました。それらの情報を得る手段もハガキからネットに変わり、把握しきれないほどの選択肢が存在します。

内定を得ても、「もっと良い就職先があるのではないか」という気持ちが生じ、意思決定する不安を強めています。

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さまざまな不安と向き合い、自分の将来について悩み、乗り越えていく就職活動は、キャリア教育のフィールドワークといえるのではないでしょうか。

そして、そこで出会った社会人の言葉は、学生に大きな影響を与えます。発する言葉1つで成長が促されることもあれば、その目を摘み取ってしまうこともあるはずです。

25年卒採用が本格的に動き出しています。学生が前を向いて、大きく成長していけるような機会になることを願っています。
〔就職情報研究所所長 平野恵子〕

※全国大学生活協同組合連合会「第58回学生生活実態調査」
https://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html

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