2023.07.18メールマガジン

学生から社会人への“橋渡し役”

長引く売り手(学生優位)市場で、新卒採用に苦戦する企業は増えていますが、入社後の育成にも苦慮するケースが目立っています。
先日、若手社員の育成をテーマにしたセミナーに参加したのですが、「新入社員の考えていることが分からない」「驚くほどあっさりと辞めてしまう」など、育成に関わる担当者の戸惑いや困惑が強く伝わってきました。

人それぞれに望むキャリアは違いますし、職場環境も異なるので、正解と言える育成方法があるわけではないでしょう。ただ、日頃から学生と接している立場から見ると、育てる側(上司・先輩社員)と育てられる側(新入社員)の物事に対する感覚のズレを感じます。これが両者の意思疎通を阻害する一因となっているのではないでしょうか。

例えば、新入社員は「言われたことをその通りに、間違いなく行うことが正解(やり方を変えたり、指示以外のことを行ったりするのはよくない)」「分からないことがあっても、先輩の仕事の邪魔をしないように、声がかかるまで待つ(自分から声をかけたら迷惑になる)」といった感覚を持ちがちです。

上司や先輩社員からすれば、当然「気が付いたら、指示されたこと以外にも取り組んでほしい」「分からないことがあれば、自分から声をかけてほしい」と考えるはずです。まさか、よかれと思って指示以外のことはしない、黙って自席で待っていた、とは思わないのではないでしょうか。

社会人にとって当たり前すぎる感覚ほど、新入社員とのズレに気付きにくいようです。その結果「言われたことはしっかりやるが、言われたことしかやらない」「分からないことを理由に、半日以上も仕事を放置していた」
などの誤解が生まれたりします。相手の理解しにくい行動にも理由があります。じっくりと耳を傾け、話を聞く必要があるでしょう。それを受けとめた上で、正すべき感覚のズレを教えることが求められます。

しかし、言うは易く行うは難しです。時間をかけて、言葉を尽くした丁寧な育成対応を、数字に責任を持たなければならないプレイングマネジャーや先輩社員に求めるのは、酷な話と言えます。そんなことを考えていたタイミングで、興味深いコラムを見つけました。

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『若手との関係から考える、成功する育成』
(リクルートワークス研究所、古屋 星斗氏)

https://www.works-i.com/project/youth/manager/detail004.html
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注目した箇所を要約すると・・・
育成成功の実感をもたらすフィードバック要素を検証したところ、「フィードバックの目的を明確にして行う」「肯定的・ポジティブな表現を用いて行う」は高い効果が期待でき、「ハラスメントにならないように行う」ことも求められる要素であることが分かったそうです。

一方で「多くの人の目に触れない場で個別に行う」「フィードバック用の資料をつくるなど、整理して行う」といったシチュエーションや形式は、育成成功への影響が見られませんでした。つまり、重要なのは“方法論”ではなく、個々の価値観を尊重しながら、適切な言葉を選び、必要なことを伝えていく経験スキルです。一朝一夕でできることではありません。

古屋氏の言葉を一部引用すれば『若手を育成するというタスクは、上司や先輩が片手間にできるものではなくなりつつあるのかもしれない。「育成専門職」「フィードバック専門職」のような職務の必要性すら感じさせる結果が示唆されているのだ』とあります。

OJT(On the Job Training )による「現場の上司や先輩社員から手ほどきを受けて育成する」というスタイルは、限界がきているのかもしれません。若年層人口はこれから減少の一途なので「辞めずに残る人材だけを育てれば良い」では、組織そのものが成立しなくなる可能性があります。学生から社会人への“橋渡し役”となるような人材育成の専門職。これは現実味を帯びた新たな職域となりそうです。〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕

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