2026.03.10メールマガジン

学生視点で考える「新卒採用の日程ルール見直し」

広報開始となる3月1日を迎え、2027年卒採用が全面的に動き出しました。とはいえ、プレ期のキャリア形成支援活動を起点とした“早期選考”が広く実施されているため、新聞などでは「就活、3年生はや大詰め」「27年卒で解禁、内々定はや5割」といった見出しが目立ちます。

早期選考は増加傾向にあり、日程ルールと現実のギャップは、年々大きくなっています。こうした背景から、政府は29年卒(現1年生)から適用する日程ルールの見直しを検討しはじめました。

▼企業と大学のスタンスの相違
日程ルールを巡る議論では、企業と大学の見解の違いが目立ちます。企業サイドは、一律のルールに縛られない採用を志向する傾向が見られます。

2025年11月に経団連が発表した「『労働移動の積極的な推進』実現に向けたアクションプラン」(※1)では、優先度の高い項目の一つに「採用方法の多様化」を掲げています。そこには「通年採用の導入・拡大(新卒者含む)」と明示されており、スケジュールに制約のない「自由度の高い採用」を志向していることが読み取れます。

一方、大学は慎重な姿勢を示しています。「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の2023年度報告書(※2)では、企業側が一律の日程ルールに疑問を呈したものの、「学業に専念する期間はしっかりと守られる必要がある」とし、「無秩序な多様化・完全自由化には反対であり、一律に日程ルールを撤廃することには極めて慎重な姿勢」と大学側のスタンスを明確にしています。

企業視点で見れば、他社よりも早く優秀な人材と接触して、獲得したいと考えるのは自然なことでしょう。より自由度の高い運用を求めるのは、必然なのかもしれません。

一方で、大学視点で言えば、4年間の教育カリキュラムに責任を持ち、その上で就職支援を行っていく必要があります。日程ルールが存在しない状況は現実的ではなく、簡単には受け入れられません。

どのような日程ルールに落ち着くのかは、現時点では見通せませんが、「広報開始」という区切りに、あまり意味を見出せなくなっていることは確かでしょう。

3年生の夏休み以降、インターンシップやオープン・カンパニーなどが実施されることで、実質的な広報活動は始まっていきます。議論の焦点は、選考開始時期をいつにするのか、運用ルールをどうするのかといった部分になると推測します。

▼学生は何を望み、何を望んでいないのか
日程ルールの議論は、企業と大学、双方の立場を踏まえた「落としどころ」を探るプロセスになりがちです。しかし、最も大切なのは学生視点です。日程ルールを巡るいくつかの調査データを見てみましょう。

25年卒採用を対象にした内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査結果について(令和6年度)」によれば、選考開始の日程ルールが必要だと回答した学生は77.4%で、前年(72.4%)より5ポイント増となっています。8割近い学生が日程ルールを求め、ニーズも高まっていると言えそうです。
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<日程ルールに関する認識(学生)>

73.8%(前年68.3%) 広報開始の日程ルールは必要
77.4%(前年72.4%) 選考開始の日程ルールは必要

内閣府「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査(令和6年度)」より
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確かに、自らのタイミングで、主体的に就職活動をはじめたいと考える学生はいますが、全体動向として一般的とは言えません。

自分の未来に大きな影響を与える就職活動を、生まれて初めて経験するのです。学生に不安がないわけがありません。不安だからこそ、SNS情報をチェックし、周囲の動きを見ながら、出遅れないように一歩を踏み出していきます。学生が日程ルールを求めるのは、ある程度同じタイミングに動き出すことが、自分たちのメリットになっているからでしょう。

日程ルールより早いタイミングで採用を進める“早期選考”についてはどうでしょう。27年卒生を対象にした1月調査では、企業の採用活動の動きは「早すぎる(もっと遅い時期に選考してほしい)」と回答した学生は60.7%となり、一貫して増加しています。企業の採用選考が年々早期化していることに対して、学生は違和感を強めているようです。
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<企業の採用活動の時期について>
「早すぎる(もっと遅い時期に選考してほしい)」の推移

39.3% 2023年卒
46.2% 2024年卒
55.1% 2025年卒
58.8% 2026年卒
60.7% 2027年卒

キャリタス「キャリタス就活 学生モニター2027調査(2026年 1 月)」より
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▼早期化が学生にもたらしている影響
現在の日程ルールが導入されてから、約10年が経ちました。この間、ルール遵守の風潮は弱まり、就職活動の早期化は着実に進んでいます。気になるのは、それに歩を合わせるかのように、学生の「楽単(楽に単位が取れる授業がよい)志向」が高まっていることです。
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<履修選択の考え方の変化>
「あまり興味がなくても単位を楽に取れる授業がよい」
(「あてはまる」+「ややあてはまる」の合計)

21.7% 2020年
27.5% 2021年
31.6% 2022年
35.6% 2023年
38.6% 2024年
40.4% 2025年

ベネッセ i-キャリア まなぶとはたらくをつなぐ研究所
「GPS-Academic全受検者集計データ6か年比較『大学1年生のトレンド変化』」より
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就職活動の早期化との関連性は明確ではありませんが、「3年生以降はインターンシップや就職活動で忙しくなるから、今のうちに単位を取っておきたい」という学生心理はあるように思います。いまの就活環境が、履修ペースの前倒しを助長している可能性は否定できません。

この10年あまりで、キャリア形成支援活動は大きく広がりました。企業理解を深めることでミスマッチを軽減し、早期離職を抑制する意図がありましたが、数字上の改善は見られません。

昨年(2025年)10月に発表された「新規学卒就職者の離職状況」データ(※3)では、3年後の離職率が18年31.2%、19年31.5%、20年32.3%、21年34.9%、22年33.8%となっています。これでは、早期化ばかりが進み、学生の不安は増しているように見えます。

▼誰のための「見直し」なのか
日程ルールの変更は、学生の学びや成長のプロセスに大きな影響を与えます。学生には、もう少し落ち着いた環境で、しっかりと学業や課外活動に取り組むことを望みます。それは、子ども以上・大人未満という成長段階にある学生が、自分と向き合い成熟していく時間です。就職活動は、その先の延長線上にあります。

日程ルールの見直しを、学生視点で進めることに異論のある人は少ないでしょう。全ての学生に影響を与える日程ルールです。就活時期を自ら決めていく一部の早熟な学生ではなく、調査データが示す一般的な学生をメインにして議論が進むことを願っています。誰のための見直しなのか。今後の動向を見届けたいと思います。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕

※1
「労働移動の積極的な推進」実現に向けたアクションプラン
https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/075.html

※2
採用と大学教育の未来に関する産学協議会 2023年度報告書
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/036.html

※3
新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html
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