2025.06.10新卒採用戦線総括

他者との関係構築に悩む若者たち

知り合いの大学教員から、ゼミ運営における悩みを聞きました。
曰く「ゼミ生同士がなかなか打ち解けず、議論も深まらない」「最初の数ヶ月はアカデミックな内容よりも、ゼミ生同士の関係構築に時間を使っている」など、学生同士のコミュニケーションに苦慮しているようでした。

私も授業や講座で、グループワークを実施する機会は多いのですが、似たような難しさを感じています。グループワークを避けたがる学生は、10年以上前から多かったのですが、以前は学生から苦手意識を強く感じていました。知らない人と交流した経験があり、その際にうまく対応できなかったからこその「苦手」意識です。

しかし最近は、そもそも知らない人との交流が乏しく、コミュニケーションすること自体に“不安”や“恐怖”を抱いている学生が多いように感じます。安易に相手の交友テリトリーに入って拒絶されたり、攻撃されたりしたらどうしよう。そんな気持ちが、お互いの交流を妨げているように見えます。

それゆえでしょうか。「友人」認定している人以外は「他人」という感覚で、興味関心を持たない関係性が増えているように感じます。ある学生は「自分とは合わない!と感じたら、すぐに見切りをつけて、交流をシャットアウトする」と言っていました。

この学生も、コミュニケーションの重要さや多様性の大切さは理解しています。しかし、それ以上に相容れない不快さが先に立ち、シャットアウトするという手段を選択しているのでしょう。もしかしたら、お互いに不快な思いをしないための配慮なのかもしれません。

矛盾するようですが、「多くの人と仲良くなりたい」「良好なコミュニケーションをとれるようになりたい」と考える学生は、以前よりも多いようにも感じます。前述の学生も、「すぐにシャットアウトしないように、直し方を教えてほしい」と発言していました。

他者との交流を怖がり、警戒しながらも、それを望む様子は身を守るために毛を逆立てたハリネズミ同士が、痛い思いをせずに近づきたいと願っているようにも見えます。互いにトゲを立てなければ、安心して相手に近づくことができるのに、それがなかなか難しいのでしょう。

また、興味深く感じたのは、対人関係の悩みにも“解決方法”があり、それを教えてくれる人がいると、学生が認識している点です。人間関係には正解がないので、自身が手探りで向き合っていくしかないと思うのですが、ゼミ生同士の関係構築も、担当教員が対応してくれる環境で育っていれば、誰かが手助けしてくれるのが当たり前という感覚も理解できます。指導してくれる人がいて、その指示をよく聞き、言われたとおりに行動するのが、彼らにとっての最善手なのです。

学生同士の関係構築でも、これだけ難しい状況です。初めての職場という環境で、「友人」でも「他人」でもない「仕事仲間」という人間関係を築くというのは、相応に高いハードルと言えるでしょう。「一緒に仕事をしていれば、自然と関係性は築かれるだろう」という感覚では、うっかり孤独にさせてしまいかねません。そのような孤独感は、離職というリスクにつながりかねません。

野村総合研究所の『今こそ企業が向き合うべき「孤独・孤立」』(※)というレポートでは、「働き始めてから5年未満の若手の半数以上が孤独を感じている」と報告しています。打ち解け合えないゼミ生同士のような職場は、意外と多いのではないでしょうか。そして「孤独感のある人の転職意向は高い」ことも、このレポートでは明らかにしています。

より良い社会人生活を送るためにも、多様な他者との関係構築トレーニングは、大学のキャリア教育の重要な要素と言えます。高度なスキルや専門知識を持っていても、人との協働のなかで発揮できなければ意味がありません。それ以上に、孤独で心身の健康を損なうことがないようにする必要があります。関係構築のトレーニングが持つ意味は、増しているように感じます。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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『今こそ企業が向き合うべき「孤独・孤立」』野村総合研究所
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/2025forum392.html

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