2025.10.14メールマガジン

ファーストキャリア決定のカジュアル化

学生のファーストキャリア決定のプロセスが、軽くなっているのかもしれない。

弊社の総括データからは、そんな兆候が感じられます。企業の情報発信の質が落ちたわけでも、大学のキャリア支援が手薄になったわけでもないのに、入社を決定するに至るプロセスがどこか淡白で、カジュアルなものになっているよう見えるのです。

今年も弊社では、大学・企業・学生の協力を得て『新卒採用戦線 総括2026』の調査を実施しました。その一部を先行して紹介しながら、学生の意思決定の変化を考えてみます。
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※『新卒採用戦線 総括2026』の調査結果は、11/21(金)開催「新卒学生の就職・採用トレンドセミナー」で報告させていただきます。
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◆ 情報を見ずに決める学生が増加
入社企業を決める際に参考にした情報について、調査結果を見てみましょう。
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<入社の意思決定時に参考にした情報 >

26年卒 25年卒(前年比)
54.2% 60.9%(-6.6Pt)転職サイト等の口コミ
53.5% 62.2%(-8.7Pt)企業HP
36.5% 41.8%(-5.2Pt)実際に働いている社員・OBOGなどの話
33.6% 43.1%(-9.5Pt)離職率・残業時間など労働条件の数値
31.7% 38.2%(-6.4Pt)業績・売上・利益などHR情報・財務情報
25.8% 36.2%(-10.4Pt)親の意見・アドバイス
23.6% 26.0%(-2.4Pt)友人・知人・先輩のコメント・アドバイス
17.0% 26.3%(-9.3Pt)ネット検索で見つけた記事・情報
14.4% 19.1%(-4.7Pt)XなどのSNS
6.6%  3.0%(+3.7Pt)特に何も見ずに決めた
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ほぼすべての項目で、前年より数字が低下しています。
唯一増加したのは「特に何も見ずに決めた」で、3.0%から6.6%へと倍増しました。また、別設問で内定企業への不安について尋ねたところ、「不安はない」と回答した学生は、24年卒8.2%→25年卒8.9%→26年卒12.2%と上昇傾向が見られます。不安を感じる学生は減っている一方で、少ない情報で意思決定する学生は確実に増えているわけです。

◆ 背景にあるキャリア意識の変化
こうした傾向の背景には、学生のキャリア観の変化があるのでしょう。多くの学生は「できるだけ1社で長く勤めたい」という安定志向を持ちつつも、終身雇用が期待できない時代であることを理解しています。「状況次第では転職という選択肢もあり」という思考が、新卒時の入社企業を“最終決定”ではなく、“とりあえずの第一歩”と捉える傾向を強め、ファーストキャリアの意思決定を軽いものにしているのではないでしょうか。仕事への熱量低下も要因の1つでしょう。パーソル総合研究所の『新卒就活の変化に関する定量調査』(※)では、2019年と2025年のキャリア意識の変化を紹介しています。
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<2019年→2025年の変化キャリア意識の変化>

(2019年の値を100とした2025年の数値比較)
〇上昇したもの
128.6「テレワークや在宅勤務など、勤務場所に融通がきく職場で働きたい」
117.1「自分にとって、働くことはお金を得るための手段にすぎない」
〇低下したもの
92.5「やりがいのある仕事がしたい」
91.1「仕事を通じて成長したい」
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仕事メインの価値観よりも、仕事も含めた日常生活の快適さを優先したいという学生が増えているようです。学生が仕事に対する関心を失ったわけではなく、ワークライフバランスや自分軸をより重視しはじめたと結果と捉えるべきでしょう。相対的に仕事への熱量が低下して、ファーストキャリアの決定がカジュアルなものになっていったと考えられます。

◆ 入社後に向き合う自身のキャリア
こうした変化を後押ししている一因が、仕事以外の場の充実でしょう。SNSやコミュニティーで「承認欲求」を満たす機会が広がり、自分の人生を豊かなものにしてくれる手段が増えています。仕事メインでやりがいや充実感を求める新卒人材は、減っていくのではないでしょうか。

そうなると就職活動は、条件重視になっていきます。自分の将来について真剣に悩み、企業や社会人の話を聞くために時間を割きながら、キャリアを模索するプロセスは簡単ではありません。ストレスに感じる学生も多いでしょう。それより「給与と自由な時間を確保できる」条件重視の就職をして、趣味や推し活に時間を使う方が、学生にとっての“確実な満足”といえるのかもしれません。

望むキャリアは人それぞれです。条件などの外発的動機でキャリア選択することを、否定はできないでしょう。それに学生のキャリア観は多様化していますが、実体験を伴っているわけではないので、強固なものではありません。入社後、仕事で“達成感”や“やりがい”を感じ、内発的動機を重視するようになるかもしれません。経験しないと分からないことは多くあります。

学生のファーストキャリア決定がカジュアル化していくのであれば、入社してから自身のキャリアと真剣に向き合う新卒人材が増えていくでしょう。採用だけでなく、入社後のキャリア支援も、大きな意味を持つ時代になっていきそうです。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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パーソル総合研究所『新卒就活の変化に関する定量調査』
https://rc.persol-group.co.jp/news/release-20250729-1500-1/
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