2025.08.05メールマガジン
チームで働く”協働スキル”の育成が必要と考える理由
ここ数年で、新卒人材の育成の難しさを耳にすることが増えました。職場でメンバーの一員として受け入れられ、自分の特性を活かしながら、仕事を1つ1つ覚えていく。こうした従来のプロセスでは対応できない状況が生じているのでしょう。そして、この傾向は今後さらに強まっていくと私は予想します。
飾らない普段通りの学生を見ていると、独特な人間関係を感じることがあります。友達との強固な関係がある一方で、その人以外は無関係な「他人」という感覚が目立つのです。「友達」よりは遠いけど「他人」よりは近い「知人」という距離感の人間関係が希薄になっているのではないでしょうか。
職場の人間関係は「友達」とは違うし、「他人」でもない。「知人」という距離感が近いと言えます。大学生活で友達と一緒に過ごすことは多くても、知人と協働する経験が得にくいことで、職場で自身の能力や知識を発揮することが難しい新卒人材が増えているように感じます。
この傾向は、データにも表れています。
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<新卒採用における学生の「優秀さ」の要素(複数選択)>※1
「協調性・チームで働く力」
全体 300人未満 300~999人 1,000人以上
2023年卒 64.0% 61.6% 66.7% 71.6%
2024年卒 68.8% 66.9% 70.1% 77.2%
2025年卒 70.6% 68.6% 72.3% 80.4%
2026年卒 76.2% 74.4% 78.2% 83.1%
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新卒採用で優秀と評価する要素のトップになったのが「協調性・チームで働く力」で、それを選択する企業は年々増えています。特に従業員規模1,000人以上の大手企業では83.1%と最も高い数字を示しています。「協調性・チームで働く力」は年々その重要性が高まっていると言えます。
さらに懸念すべきデータがあります。
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<1,000人あたりの不登校人数>※2
小学校 中学校 高校(中途退学率)
2020年度 10.0人 40.9人 13.9人(1.1%)
2021年度 13.0人 50.0人 16.9人(1.2%)
2022年度 17.0人 59.8人 20.4人(1.4%)
2023年度 21.4人 67.1人 23.5人(1.5%)
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文部科学省の調査によると、1,000人あたりの不登校人数は年々増加しています。不登校になる背景には様々あり、その是非を論じるべきではないでしょう。注視したいのは、教室という限られた環境のなかで、人間関係を構築するトレーニング機会を得られなかった児童生徒が増えているという点です。
また、通信制高校の在籍生徒数も注目に値します。
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<通信制高校の在席生徒数>※3
高校全体の生徒数 通信制の在籍生徒数(全体に占める割合)
2021年度 3,023,436人 218,389人(7.22%)
2022年度 2,972,508人 238,267人(8.02%)
2023年度 2,934,313人 264,797人(9.02%)
2024年度 2,923,142人 290,087人(9.92%)
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2024年度には29万人を超え、約10人に1人が通信制の高校に通っている状況です。学びの自由度が高く、自分のペースで学習できるという通信制の良さはありますが、一方で、他者と折り合いを付けながら生活するトレーニングは得にくいように思います。
小学校での暴力行為が7万件を超えたことを取り上げた記事(※4)には、公立小の校長先生のコメントとして、「気持ちを言葉で上手く伝えられない傾向がある」「話す方法や必要な語彙力など対話のための準備が抜けている」といった指摘がされていました。初等教育段階から、他者と交流するためのトレーニングの必要性を感じさせます。
チームで働く協働スキルは、先天的な資質ではなく、マナーや報連相といったトレーニングで育成可能でしょう。そのトレーニング経験を通して、チームのなかで自分が担える役割や強みを発見することもできるはずです。
大学と自宅の往復という単調な大学生活を送っている学生も少なくありません。大学ではアクティブラーニングとしてグループワークの実施が増えています。友達同士でチームを組むのではなく、初対面同士のチーム活動にすることで、良いトレーニング機会になるのではないでしょうか。
内定者や新入社員の研修では、できるだけ属性や価値観が異なるメンバー同士をチームにすると良いかもしれません。日常生活のなかで獲得することが難しくなっているのであれば、周囲の支援者や育成者が意図的にトレーニングさせていく必要があります。
多様な他者との関係構築は、より良い社会人生活を送るために必要かつ重要な要素です。高度なスキルや専門知識を持っていても、チームのなかで発揮できなければ意味がありません。大学生活のなかで“協働スキル”を獲得するプロセスは、就職活動における強力な強みになるはずです。また、大学から社会への接続において“協働スキル”の育成は、今後ますます欠かせない要素となるでしょう。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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※1
「企業新卒採用活動調査(6月)」マイナビ
※2
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
文部科学省
※3
「学校基本調査」文部科学省
※4
『窓ガラスをたたき割る小学生、増える暴力 校長が感じる改善の糸口は』
朝日新聞デジタル2025年4月2日
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